2013年9月22日日曜日

松阪市の市民まちづくり基本条例は住民を置き去りにする!? 松阪市議会議員 植松泰之

 松阪市議会が昨年(平成24年)3月に否決した「市民まちづくり基本条例」が再び10月の議会に上程されようとしています。

  この条例は、「市民」を定義づけるのに市外の人々も含めている点や「住民投票」に参加できる投票権者に外国人を含めている点など、市政の根幹を揺るがしかねない多くの問題を含んだもので、松阪市に住む多くの方々もパブリックコメント(意見聴取)等を通じて制定反対を訴えたという経緯のあるものです。

 では、この条例が私たちの指摘通りに修正されて再上程されるのかといえば、本質的に何ら変えられていません(多少の言い回しが変えられている箇所がある程度)。

 私たち松阪市議会はこれに対する扱いに今、大変頭を悩ましています。

 何としてもこの条例を制定したいと思っている議員は「議論の場を作って大いに討論すべきだ」などと迫ってきていますが、討論するといっても昨年まで十分に議論してきたこの条例に対し新たに何を議論しようというのか分からないのです(同じ意見を披露し合うのならできないことはないのですが)。

 
 既に議論の論点整理もできており、見解の相違、国家観の相違から互いに歩み寄れるところがないのは明らかになっています(例えば、外国人にも住民投票権を与えるべきだと言われても、これは話し合って落としどころを見出せるような案件ではないのではないでしょうか)。

 また、私たち松阪市議会が皆さんの町に出向いて行う「議会報告会」では条例制定を否決したことに対して異論は聴きませんでしたし、先の市議会議員選挙では私自身も含め他の多くの議員は条例制定を否決したことに対し、むしろ賛同を得てきたという経緯があります。

 以上のような経緯はすべて無かったことにして、もう一度議論すべきなのでしょうか。議論とは一体何なのでしょうか。

 皆さんから寄せられた多くの貴重なパブリックコメントも無かったものとして、もう一度意見を聴くべきなのでしょうか。

 
 一体、誰のための条例なのでしょうか。

 何を目的にした条例なのでしょうか。

 良識ある松阪市の皆さんが下した昨年の判断は大変重たいものです。その結果が気に入らないからといって「もう一度、議論の場を作って一から討議すべきだ」などとは私は到底言えません。

 当然、松阪市議会に条例が上程されれば、互いに意見交換はしますが、話し合って落としどころを定めたり、修正を加えたりできるものではないでしょう。そのようなことをすれば、それは松阪市の住民に皆さんの意向に背いてしまうということに他なりません。

 「再び議論する場を持つことが善、議論を避けることが悪」などという単純な構図で考えてしまうと問題の本質を見誤ってしまうかもしれません。

2013年9月16日月曜日

松阪市の決算審査で指摘したこと・市債残高について 植松泰之

 先日の決算審査(総務生活分科会)ではいくつかの疑問点、改善点を指摘しましたが、一点、議論の噛み合わなかったところがありました。

 松阪市には監査委員が3名おり、松阪市の予算が公明正大に執行されているかを定期的に監査しています。そして決算発表と同時に監査委員による審査意見書が提出されます。これも参考資料の一つとしながら議会は決算審査を行います。

 その中に松阪市の市債(起債)残高に対する審査意見がありました。「一般会計、特別会計および企業会計を合わせた松阪市全体の市債(起債)残高は1,163億9,809万円で・・・市民一人当たりに換算すると69万円に相当する」(編集:植松)というものです。

 今回、私が監査委員に指摘してもなかなか議論の噛み合わなかったのは、起債残高(市の借金という言い方もされている)を市民一人当たりに換算する必要があったのか、算出された換算値にどのような意味があるのかという点でした。

 監査委員は「1千億円以上の金額はなかなか想像し難いため、分かりやすくするために市民一人当たりに換算した」と答弁されました。あくまでも分かりやすさを追求したということです。果たして、本当に分かりやすくなったのでしょうか。そもそもどこが分かりにくく、何を分かりやすくしたのでしょうか。実体のない漠然とした値であるがためにかえって不安感を増幅させるだけのものではないのでしょうか。

 借金つまり市債(起債)残高1千億円について論評を加えるならば、もう一方にあるそれと同等の、もしくはそれ以上の“市の資産”があるということに言及する必要があると考えます。「松阪市の借金は市民一人当たり69万円です」といって、今後、松阪市民一人一人が69万円の借金を返済していかなければならない債務者だという印象は持たないと断言できるのでしょうか。市民一人当たりの市債(起債)残高がいくらまで上がれば市が破綻し、いくらまで下がれば健全財政だ、などという公的な指標があるのでしょうか。

 公的な指標には“実質公債費比率”があります。これは松阪市に入ってくる税金や地方交付税のうち、何%が債務の返済に使われているのかを示す指標です。松阪市は7.5%です(この比率が18%を超えると起債するのに許可が必要になります)。「市民一人当たりに換算すると69万円」の借金(市債残高)という表現は松阪市の財政の実態を正確に表し得ないし、むしろ独り歩きし、誤解を与えてしまいかねない言い方ではないでしょうか。また、それならばと1千億円の市債残高を市が全額返済するといって銀行は困ってしまわないでしょうか。

 決して1千億円の市債残高は大きくないと言っているのではなく、財政構造を見るには公明正大で複眼的且つ冷静な見方が必要なのではないかということ、そのような思いから今回は指摘しました。

 自治体の財政を分析するにはいろいろな方法があります。いろいろな考え方もあります。これからも皆さんとともに議論を続けていくことが大切だと考えています。

2013年9月1日日曜日

松阪市の図書館の「これから」を考えてみる : 松阪市議会議員 植松泰之


 松阪市図書館は平成21年度から5年契約で指定管理者制度を導入しており、今年度が最終年度に当たります。そして現在、松阪市は平成28年度における図書館全面改修をも視野に入れ計画を進め、図書館改革推進プロジェクトも87日に発足させ、基本構想の構築を目指しています。

 松阪市図書館は今後の運営を考えていく上で、極めて大切な時期を迎えています。今、改めて今後の図書館のあり方を模索していく必要があるのではないでしょうか。

 この度、私は松阪市議会会派の行政視察で、いち早く公立図書館に指定管理者制度を導入し、一定の成果を上げている千代田区立千代田図書館を訪館し、指定管理者による図書館運営の新たな可能性を探ってきました。これを基にこれからの松阪市における図書館運営というものを少し考えていきたいと思います。

千代田区は、わが街の図書館をわが街らしい図書館にしようと決めました(平成16年)。そのためにまず、そもそも千代田区とはどのような機能と特徴を備えた街なのか、国立情報学研究所へ調査委託し、自己分析を行うことから始めました。その結果、千代田区には企業や官庁に勤める多くのビジネスマンがおり(昼間の人口は居住者数の約17倍の84万人)、大学の数も12校と多く、さらには出版産業を地域産業に持ち、古書店も多いなど、他の地域とは違った特徴を有することが分かりました。

 そこで、まず新しく生まれ変わる図書館の重要な機能を「千代田ゲートウェイ」と命名して、千代田区の地域情報の発信、“出版”に関する情報の発信、本の街神保町との連携による書籍の入手情報の発信を担う情報集積・発信型の施設として位置づけたのです。そしてこの機能を一つのコンセプトとし、さらに「ビジネスを発想するセカンドオフィス」、「区民の書斎」、「クリエイトする書庫」、「ファミリーフィールド」という4つコンセプトと合わせ、図書館のあるべき機能を合計5つの機能コンセプトにまとめ上げました。その上でこれらのコンセプトに沿ったサービスを提供できる企業を募集することにしました(平成18年)。


当然すべての機能・サービスを提供できる企業は存在せず、したがって、企業の専門分野を活かした業務分担を行うことで総合的に運営できるよう3社合同での受託となりました。代表企業は株式会社ヴィアックスで、サービス・総務・学校支援を担当、構成企業としてサントリーパブリシティサービス株式会社は読書振興センター・広報・コンシェルジュを、株式会社シェアード・ビジョンは館長・企画・システムを担当します。


千代田区の図書館は5つの機能コンセプトの下、貸出中心の図書館から「滞在型図書館」へと移行しました(平成19年)。決して貸出数を競おうとはしなかったのです(貸出数を増やそうとすれば新刊やベストセラーを多く取り揃えれば可能です)。このような運営方針は高い満足度(80%以上)にも表れているように、区民をはじめ、在勤・在学の人たちにも受け入れられ、すでに定着しつつあります。指定管理者制度導入後、入館者数が約26万人から77万人まで伸びたこともその証左です。

ただし、住民のニーズに応え、サービスの拡充を図っていくには、それだけ経費はかさみます。千代田区では学校支援のための司書の確保や広報の充実のための図書専門の広報担当者の確保を積極的に進めた結果、指定管理者制度導入後、図書館運営経費が32千万円から375百万円まで増えました。    

したがって、何のための指定管理者制度なのか、更新を控える松阪市はもう一度考えなければならないのではないでしょうか。そしてこれから目指していこうとする図書館の姿はどのようなものなのか、松阪市の住民の望む図書館の機能はどのようなものなのか、改めて問うていく必要があるのではないでしょうか。

千代田区が行ったように、松阪市もまず、松阪市とはどのような機能と特徴を備えた街なのか自己分析することから始めてはいかがでしょう。そしてそれらを基に、多くの住民も交えながら新たな図書館のコンセプトを明確にしていってはいかがでしょう。

新たな図書館を目指し、すでに図書館運営の成功している自治体はいくつもあります。しかし、それらはその地域だからこそ成功したのだと冷静に判断することも大切でしょう。わが街の図書館はわが街でしか成り立たない、そんな図書館であっても良いのではないか、と少し思うようになりました。